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世界のテロ組織と対テロ組織
Terrorist & Counter-Terrorism

 

公安調査庁 『国際テロリズム要覧』 1993

 
第2章 テロ組織の類型について

 第1章でみたように、テロリズムを遂行する組織には、各々拠って立つ主義、主張、目指す目的があり、これが組織の行動を基本づけているが、これらの組織の性格を類型化したものが以下の分類である。

 

1 反体制テロリズム

 反体制グループが国家転覆等、既存の秩序を破壊し、権力を獲得しようとして国家を攻撃するために用いるテロリズムを反体制テロリズムという。また、反体制グループとは、現代社会を支配している権力、価値体系から逸脱し、現体制を攻撃するグループをいう。

 反体制テロリズムは、さらに犯罪型、虚無型、民族型、革命型に分類される。

 

(1)犯罪型テロリズム
 犯罪グループによって行使されるテロリズムをいう。身代金獲得を目的としたものや最近、南米コロンビア等で多発している麻薬取引の利権擁護を目的とした「麻薬テロリズム」、イタリアのマフィアのテロリズムがその代表例として挙げられる。

 犯罪型テロリズムは、一貫した体系的な政治行動計画を持たず、現体制を転覆させるのではなく、テロリズムを手段にして現体制の懐に飛び込もうとする例外的ケースであり、支配体制に対する寄生的な関係がその特徴として挙げられる。

 

(2)虚無型テロリズム
 体系的な政治行動計画を持つものの、その内容が「現状否認」=「現体制の破壊」に止まり、現体制が解体されれば新たな良い体制が発生するといった漠然とした予測以外具体的な展望を持たないニヒリストグループにより行使されるテロリズムをいう。

 孤立化した反体制派が積極的な革命の企てに着手できない場合、革命を棚上げにしてこの種の破壊に携わる傾向がみられる。

 純粋類型としての虚無型テロリズムの具体例を指摘することは困難であるが、新左翼運動から派生したニヒリズム的傾向を持つドイツ赤軍派(RAF=バーダー・マインホフ・グループ)、日本赤軍、赤い旅団がこれに該当すると考えられる。

 

(3)民族型テロリズム
 国家からの分離独立を主張する民族主義的、分離主義的なものでマルクス主義や宗教的な要素を抱えている混合的な形態が多く、ニヒリストグループの場合と同様に純粋類型としての民族型テロリズムを指摘するのは困難である。

 マルクス主義の階級的帰属意識の普遍性、キリスト教、イスラム教といった世界宗教の説く普遍救済などと民族主義が合体した場合にはその目指すところは全人類に対する普遍救済的なものとなる。

 一方、全人類よりも狭い範囲のグループに連帯を呼び掛ける場合には、自主独立的なものとなる。

 通常の自主独立的なイデオロギーは、民族国家以外のそれよりも狭い範囲の社会を対象としており、国家の支配的体制に対して特定の民族的、文化的グループの要求を突きつけるのが一般的である。

 その典型的な要求は、自治権の要求及び自治権の拡大である。

 民族主義、分離主義的なテログループの例としては、

<1> バスク祖国と自由(ETA)
 北スペイン・バスク地方の少数民族独立主義者のテロ組織
<2> ブルターニュ解放戦線(FLB)
フランス・ブルターニュ地方の分離独立を要求するケルト系民族のテロ組織
<3> シーク教徒分離独立派
 インド中央政府に対して様々な自治権を要求しているインド北部パンジャブ州に密集しているシーク教徒過激派組織

    (注)一般に知られているシーク教徒過激派の組織としてはダル・カルサ、全インド・シーク教徒学生連合、ババル・カルサ、第1バンチック委員会、第2バンチック委員会、アザード・カルサ、アカリ・ダル連合、国際シーク青年連合、カリスタン国民評議会等が挙げられる。
<4> アルメニア解放秘密軍(ASALA)
 トルコ領内のアルメニアの分離独立を要求する亡命アルメニア人のテロ組織
<5> アイルランド共和国軍(IRA)
 北アイルランドの英国領からの離脱とアイルランドへの統合を要求して英国政府及びプロテスタント系住民を攻撃するカトリック系テロ組織
<6> モロ民族解放戦線(MNLF)
 フィリピン南部ミンダナオ島を拠点に分離独立を主張するイスラム教モロ族のテロ・ゲリラ組織
<7> パレスチナ解放運動組織
 パレスチナ人の祖国解放、民族復権、イスラエル解体を唱える過激派組織「パレスチナ解放人民戦線」(PFLP)、「黒い9月」(BSO)、ファタハ等過激な行動で知られる組織が多い。
<8> コルシカ民族解放戦線(FLNC)
 コルシカ島のフランス政府からの分離独立を目指すコルシカ人民族派のテロ組織
<9> タミル・イーラム解放の虎(LTTE)
 スリランカの北部、東部両州にわたるタミル人の自治国家建設を要求するタミル人分離独立派のテロ・ゲリラ組織等が挙げられる。
 現在、世界中で発生している反体制過激運動のルーツとなっているのがこの「民族型テロリズム」である。
 

(4)革命型テロリズム
 専制政治、外国からの解放を目指す型である。

 現在の政治体制からの離脱ではなく、政治体制そのものを乗っ取り、変革しようというものであり、その革命思想が自主独立の構想を上回り、一国の境界を越え、世界的規模に達するような場合もある。

 宗教やマルクス主義イデオロギーと合体した場合の混合類型ではそのようなものがみられる。

 宗教と合体した代表例としては、イスラム原理(復興)主義が挙げられる。

 イスラム原理主義は、反西欧的近代主義、反共産主義を掲げる右翼的な性格を有する現状批判の抵抗運動で「退廃的な西側文化を排除し、コーランに盛られた社会倫理に基づく正しい体制作りを目指す」もの(主流<現実>派の思想は私有財産制度を擁護し、市場経済、資本主義に肯定的でイスラムの理念による経済社会の改造が可能としている)とされており、キリスト教と同様すべての人々の改宗を受け入れる普遍救済型のイスラム教と合体することで、運動も特定の民族グループあるいは国家だけにとどまらずイスラム社会全体を対象とするものとなっている。

イスラム原理主義を奉じるテロ紬織としては、「パレスチナ解放機構」(PLO)内主流派のFATAH(ファタハ)とインティファーダ(反イスラエル占領闘争)の指導権をめぐって闘争中のHAMAS(ハマス)及びISLAMIC JIHAD MOVEMENT(イスラム聖戦運動)が挙げられるが、その目的とするところはパレスチナ解放というよりもイスラエル及びイスラエル地域のユダヤ人の存在を否定し、イスラエルを撃滅してパレスチナにイスラム国家を建設することを目指している。

 一方、マルクス主義などイデオロギー的なものとの混合類型としては、

<1> 民族抵抗武装軍(FARN)
 エルサルバトル第2の左翼系テロ組織「民族抵抗組織」(RN)の戦闘部隊。毛沢東路線をとって結成。1978年5月17日、エルサルバドルで日本との合弁会社「インシンカ社」松本不二雄社長を誘拐し殺害。1978年12月7日、「インシンカ社」鈴木孝和取締役を誘拐し、身代金奪取。

<2> ファラブンド・マルチ民族解放戦線(FMLN)
 上記FARN等5派で組織するML(マルクス・レーニン)主義を信奉するエルサルバドルの反米左翼ゲリラの連合組織。

<3> 4月19日運動(M-19)
 人民主義を唱え、コロンビアのブルジョア階級、米国帝国主義に対する人民の闘争を強調し、麻薬密売業者と協力関係にある。ETAと同盟関係にある。1990年10月に合法政党化したがー部の分子は依然としてテロ活動を行っている。

<4> センデロ・ルミノソ(=輝く道)
 ペルー共産党より分離した毛沢東主義を信奉する極左テロ組織。現政体を転覆し、左派インディオ国家建設に至る農民武力闘争を推進。

<6> ツパク・アマル革命運動(MRTA)
 米国資本のペルーからの追放、マルクス主義世界革命運動の一環としての活動を行う。親カストロ系のML主義を信奉する大学生過激派によって形成された独立組織。
等が挙げられる。

 これらは、軍人独裁などによる政情不安と富の偏在から生じる社会的、経済的不平等に対する民衆の不満を反映したものであり、歴史的には、スペイン、ポルトガルによる支配から米国、英国による支配へ移り変わってきた植民地主義的な抑圧が背景にある。

 また、マルクス主義を組織の理論支柱としてとり入れているテロ・ゲリラ組織は、マルクス主義の主張する「国際連帯」の立場から、他細織と連帯協力している例が多く見られる。その代表例としては、「パレスチナ解放人民戦線」(PFLP)と日本赤軍、「ドイツ赤軍派」(RAF)との共闘関係が挙げられる。

 

2 体制側テロリズム

 国家の支配者が自己の権力と権威に対する挑戦を抑制し、その統治、支配を強制するために用いる執行的なテロリズムを体制側テロリズムという。

 体制側の暴力行為は、
 <1> 政府当局が行う鎮圧(注1)戦術

及び

 <2> 現体制に対する脅威除去のために行動を起こした一般私人の行う鎮圧戦術の形をとり、テロリズムになるか鎮圧行動になるかは攻撃目標の性格、攻撃手段の分別、無分別の度合いによる。

    (注1)鎮圧とは、現体制にとって脅威になるとみられる人々に対抗する行為であるが、正常な法の執行は本来鎮圧的な性格を有するものであり、合理的に開かれた政治体制の中の犯罪的逸脱行為に対して慎重に規定された範囲内で加えられた鎮圧までも抑圧(注2)の兆候とするのは不当といえる。

    (注2)抑圧とは、被抑圧者が存在するという社会的現実から生じた状態であり、本質的な搾取と権利はく奪の状態をいう。

 テロ戦術の制度化が進むにつれて体制側テロリズムは、暴力(Violence)から実力(Force)へと変身する。

 また、強制行為は、対応型と先制型に分けられるが、対応型の強制は直接の挑発または脅威に対して行われるものである。

 先制型の強制は、直接的に感じられる刺激もないのに開始されるものである。

 歴史的にみて体制側テロリズムは、制度化が進むにつれ、次第に先制的になっていく傾向がある。

 体制側テロリズムは、自警団型、秘密工作員型、公務執行型、大量殺りく型に分類される。

 

(1)自警団型テロリズム
 非番の公務員を含む一般私人による体制側暴力の一形態であり、体制型テロリズムの中で一番制度化されていないものである。

 そもそも自警行為は現行体制擁護の行為であり、現行体制を破壊しようとするものではない。また、自警団型暴力が無差別的なものではなく、現行体制を攻撃する「戦闘員」と目される者に向けられている場合には、暴力行為とは言えてもテロ行為とは言えない。

 人種的グループ、文化的グループ、政治的グループに対する自警団型暴力は、テロリズムに発展する可能性が最も高い。

 実際、宗教、人種暴動といった形で現れるこの種のテロリズムは、治安当局の不能、腐敗、無関心といったことから当局をあてにすることができないと感じて自警的行動に出る場合が多く、当局の取締りも徹底さを欠くケースが多い。宗教的あつれきから年じたものの具体例としては、1984年10月インディラ・ガンジー首相暗殺事件後に報復としてインド全土でシーク教徒数千人が殺害・暴行された事件が挙げられる。

 自警団型のテロ組織としては、IRAに対抗して結成された北アイルランドのプロテスタント系の過激派組織「アルスター防衛協会」(UDA)、「アルスター自由戦士団」(UFF)、「アルスター義勇軍」(UVF)等が挙げられる。

 人種的あつれきから生じたものの例としては、マレーシアで1969年に発生したマレー人の中国系華僑に対する暴動が挙げられる。政治・思想的なあつれきから生じたものの例としては1965年のクーデター失敗後、インドネシア全土で虐殺、迫害されたインドネシア共産党員へのテロ事件が挙げられる。

 

(2)秘密工作員型テロリズム
 私人によるテロリズムと公人(公務員)によるテロリズムとの境界がはっきりせず、交錯した状態で行使されるテロリズムをいい、非番の警察官や軍人が公務上の治安に関する関心を私生活に持ち越し、私人の立場で「暗殺部隊」として活動するようなケースをいう。

 具体例としては、1981年、中米グアテマラにて1万1,000人の犠牲者を出し、市民生活を脅かした「白い手」「紫のバラ」といった自警団型暗殺部隊が挙げられる。

 

(3)公務執行型テロリズム
 政府当局が治安戦略の柱として戦術的に公然と行使する暴力をいい、レーニンの教会弾圧やスターリン政権、ヒトラー政権、カンボジアのポル・ポト政権、チリのピノチェト政権が行った執行型テロリズムや中国革命期に政権を掌握していた蒋介石国民党政権が革命勢力に加えたテロリズム、キューバ革命期にバチスタ政権が革命勢力に加えたテロリズム、ベトナム戦争当時に南ベトナム政府の警察がべトコン捜査の名目で行ったテロリズムがこれに該当する。

 スターリンの統治をみると1930年代後期の大粛清では、1934年の第17回党大会代議員1,966人中1,100人以上が2〜3年の内に処刑されている。

 この種のテロリズムは、政府当局内に醸成された正規の公務執行では治安が保てないという危機感や遵法意識の不足、または公務への服従に対する満足できる見返りを欠いた結果起こるものが多い。

 

(4)大量殺りく型テロリズム
 体制側テロリズムが制度化された究極の形態で、政府の政策として特定グループをそっくりそのまま、まっ殺してしまうことを指す。

 大量殺りくとは、一民族(通常は少数民族)をまっ殺しようとする長期的かつ組織的な努力であり、一般市民による遵守と参加を保障するための基本政策としての機能を持つ。

 大量殺りくでは、犠牲者を攻撃目標とされる集団の中から恣意的に選ぶのではなく、組織そのものが撃滅(全滅)の対象となる。このため、周到な計画が必要とされ、政府の官僚がその策定に携わることになる。代表例としては、ヨーロッパ系ユダヤ人に対するナチスのホロコースト、イラク・フセイン政権による1980年代後半のクルド人大量虐殺が挙げられる。

 
    * 参考文献:「テロリストの神話」ピーター・セダーバーグ著(TERRORIST MYTHS、PETER C.SEDERBERG)
    :現代政治学叢書4「革命」中野実著(東京大学出版会)
    :「アラブ社会主義の危機と変容」清水学編(アジア経済研究所)
 

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