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東京クーデター
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第四章 クーデターの戦略・戦術 |
二 プロパガンダとアジテーション革命やクーデターにおいて重要な役割をはたすものに、プロパガンタ(propaganda 宣伝、特に政治宣伝)とアジテーンョン(agitation 扇動・アジ)がある。 この二つは、まったく性格を異にしているとはいえない。プロパガンダのなかにアジ的要素をふくむことがあるし、アジテーションのなかにプロパガンダを入れることもある。事実、プロパガンダのなかに、なんらかの形でその宣伝を実行させようとする扇動的意図がなければ、宣伝は弱くなるし、アジテーションのなかにも、大衆の理解と共鳴を得るためのプロパガンダがなければ、扇動にのってはくれない。どちらの性格が強いかで、プロパガンダかアジテーションかということになる。 この両者は、その用い方しだいでは、核兵器に優るとも劣らない力を発揮する。一九一七年(大正六年)のロシア革命の際、ポリシェビキの行ったアジテーションが、反革命流の陸軍士官候補生、コサック集団を、もののみごとに革命派あるいは中立に転向させたという実例が、このことを証明している。 卑近の例としては、ベトナム戦争で、南ベトナム軍第五十六連隊の連隊長以下全員が解放軍に投降した事件がある。新開・雑誌などでも報道されたが、ここでは『週刊貌代』(昭47・6・5号)から、その記事の一部を引用してみよう。
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アジやプロパガンダがいかに大きな効果をあげているかは、この一事でもよくわかる。ロシアの革命家たちが、敵軍内に潜入し、政治宣伝・扇動に活躍しただろう姿も、ベトナム戦のこの一コマから想像できる。ロシア革命の父といわれるレーニン(Vladimir Iliich Lenin)は、すぐれた革命理論家であると同時に、すぐれたアジテーター、プロパガンディストでもあった。 わが国での最近の例をあげてみる。それは、昭和四十七年三月の衆院予算委員会(二十七日)での、社会党横路孝弘代議士の沖縄返還にかかわる発言である。もちろん、これなクーデターや革命を意識してのプロパガンダであったわけではないが、国民の政府不信をあおるうえで、大きな効果があった。横路氏は、日米の沖縄返還協定第四条三項は日本国民をあざむくものであると、その裏面を暴露して政府を追求した。これが、外務省機密漏えい事件に発展する。 もともと国民の大多数は、体制側の発表をあまり信用しない。(浅間山荘事件で、機動隊の放水に村して赤軍の五人が、人質の牟田泰子さんのために人壁をつくって守ってくれたとか、その他かれらを弁護することばなどを、警察がかん口令を出して外部にもらさないようにしたようだと、ある週刊誌は書いていた。また、外務省の機密漏えい事件の本筋にはまったく関係ないはずの西山・蓮見両氏の個人的問題を暴露して、事件の本質から国民の目をそらせようとしたとも思える行動を体制側はとっている)。しかし、信用していなくても、これを否定しさるだけの材料をもっていない。だから、この種の暴露は、事の内容にもよるが、かなりの効果をあげることができる。 すなわち、国民の支持を反体制側に転換させることに役だつだけでなく、体制側やその支持諸機関(自衛隊を含む)の士気を阻喪させ、ときにはその力を徹底的に破壊するにいたる。そして、反体制側をいっそう有利に導くことはいうまでもない。 この宣伝・扇動工作は、クーデターの準備期間中に行うのが効果的である。さまざまなマス・メディアの発達した今日、体制側の非政をあばく資料をマス・コミに提供する方法もあろう。しかし、このことで自己の正体をつかまれ、逮捕される危険があるようなばあいは、当然中止すべきである。 ここで注意しておきたいのは、プロパガンダやアジテーンョンがいかに強力な武器であったとしても、それは真実に基づかないもの――デマであってはならないということである。つくりあげられた虚構であることが判明したとき、「扇動」「宣伝」はたちまちその神通力を失ってしまい、その後においても回復することはない。 また、逆に権力側の謀略宣伝=デマゴギー(Demagogy)が行われることも予想される。このことをあらかじめ考慮にいれておいて、それらへの対策をたてておくことも、戦略家のなすべき任務である。 |
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